まだ馬の骨じゃない
ハマりすぎてツイッターで1日5回くらい平沢進について言及していましたが、実母にミュートされそうになったので外出と共に平沢進関連のツイートを自粛しています。
ところで、ゴールデンウィークなのに課題も出ず(ヤッター!)、外出はおろか近所のスーパーへの買い物さえ3日に1度にしろと言われるご時世、最初こそ散歩をして公園の花を愛でてみたり、オンライン飲み会に顔を出してみたりしましたが、すぐにやるべきことを見失い、YouTubeとソーシャルゲームに勤しむ日々が続いています。sky楽しい
そういうわけで私はここ数日の大半を平沢進の鑑賞にあてています。その研究についての中途報告をまとめようと思い数か月ぶりにウォッシャブル全裸を開いてみました。暇で死にそうで今にも部屋のフローリングの木目を数えそうな人々と、既に数え始めてしまった人々、平沢進ってなんだろう?って思ってる人に捧げます。
〇認知
私が平沢進を認知したのは「パレード」がきっかけです。ウン年前に弟にYouTubeで見せられた気がします。そのころは「へえ~パプリカね~オタクがみんな口をそろえて見ろ!って言ってくるからすごい有名なんだ~」と大して気にしていませんでした。
今現在、平沢進のファンを自称している人類の大半が、実はファンになる数年前から無意識に「平沢進」を植え付けられていたという事実は、オセアニアでは常識です。
数年後、何も知らない私がのんびりとツイッターをしていると、タイムラインにたまに出てくるこの「susumu hirasawa」という男がいます。これは何だろう。プロフィールに飛んでみたところ、何だあのパプリカでパレードの平沢進じゃないか!と発見するに至ります。しばらくも経たないうちにフォローしてみます。
すでに知っている人も多いかもしれませんが、平沢進のTwitterは、何を言っているのかサッパリ分からない、というブッチギリの狂気度で有名です。
しかし私は平沢進のツイートを、「アハハ何言ってるか意味わかんないウケる」というような俗っぽい感性で読みたくありませんでした。そして「平沢進?ああ、あの頭おかしいミュージシャンねw」と渋谷のスクランブルでスタバのコーヒーを片手に訳知り顔をする人類にもなりたくありませんでした。そんなことになったら、私は永久に「頭おかしいは誉め言葉だからw」という俗っぽい非凡を気取った黒歴史の擬人化の奴隷になり、俗っぽい墓場に埋められて一生を終えてしまうことでしょう。
動機は何にせよ、私はこの理解しがたいものを丁寧に捉えなければならないと思いました。
この還暦の男性について一定期間の鑑賞と、研究が必要だろうと結論付けたわけです。
〇先輩の導き
「この平沢進という男はいったい何者なんだ」初歩的にそう呟いた瞬間、学年が9個も上の高校時代の先輩から次の動画が送られてきました。関係ありませんが、この先輩は遥か昔に卒業したにもかかわらずTwitterに潜み続け、春には何も知らないのほほんとした新入生を片っ端からフォローしていくという「森のヌシ」みたいな人です。
言いたいことは色々ありますが、ともかく、私はここで「どうやら私とインターネットが赤ちゃんの頃から先駆者だったに違いない」と確信しました。何の先駆者かはさておき、90年代にここまでパソコンについて語る平沢進は、先駆者と言って差し支えないでしょう。
平沢進の正体は、先駆者であったのです。
しかし「週間おもしろパソコン 平沢進」だけでは、平沢進を真に理解したとは到底言えません。私は赤の他人の叡智を借りるべくYouTubeで気軽に検索しました。そしておあつらえ向きに用意されていた初心者向けの動画を見てみました。
どうでしょうか。門前焼き払いもいいところです。2曲目の「白虎野」で非常に安心したのを覚えています。
このころ何の知識もなかった私は、P-MODELが何なのか分からず(平沢進が昔やってたバンドです)、核P‐MODELもナンノコッチャ分からず(P-MODELが休止した後に平沢ひとりでやってるP-MODELらしいです)、ただ困惑しましたが、この中で「庭師KING」という曲にドはまりし、いよいよ深淵への道が拓けたのを実感します。
〇江頭 2:50がくれたもの
察しのいいYouTubeくんは、私が平沢進という宇宙を探索し、闊歩しはじめたことに気がつきます。
あなたへのおすすめ欄を何となく流し見ていたら、このような動画が差し出されました。
https://www.youtube.com/watch?v=-kzFVoUJLf8&t=3s
何でしょうこれは。私の笑いのツボは小学五年生の男子と全く同じそれであるのでひとしきり笑った後、この動画を3回くらい見て、この曲の元ネタは何だろうと興味を持ちました。
https://www.youtube.com/watch?v=NLOYEw180po
これが本家です。いかに江頭の再現度が高いかようやく理解しつつ、この全く理解しがたい映像と、聞いたことのない音楽と歌詞、平沢進の世界に突然沈められました。
私は確信しました。
これは理解できないぞ!
世の中に蔓延しているほぼ全てのカルチャーが、いかに人間に理解しやすいように作られているかをつくづく痛感します。なぜなら、理解され共感されなければ売れないからです。売れないカルチャーは軒並み、売れるカルチャーに蹂躙され、忘れ去られ、あるいは存在すら知られないまま、世界から姿を消します。
しかし平沢進は、誰にも理解されないであろうものを、ここ30年は確実に作り続けています。もちろんパプリカや白虎野など上澄みのような頂きやすい平沢進もご用意されていますが、基本、歌詞には共感性の欠片もありません。もし身の回りに「平沢進の歌詞すごい沁みるわ~」という輩がいたら、最悪の場合絶縁することをお勧めします。
平沢進の詩は、他人に理解できるものではない。
そう確信しましたが、ここで探求をやめる気は毛ほども起きず、私の研究は次のステージへ進みます。
〇救済の技法
それからしばらくYouTubeで庭師KINGや2D or not 2Dを聴く生活が続いたような気がします。よく覚えていません。しかしある日、突然天啓のように閃きました。
iTunesで全曲ストリーミング配信されているのでは?
そう。平沢進は先駆者なのですから、どう考えてもストリーミング配信をしていないわけがありません。星野源だって全曲ストリーミング配信しています。RADWINPSはしていませんが、RADWINPSは先駆者ではなくみんなの人気者なので、仕方ない事です。
圧倒的な過去作の情報量を期待してiMusic内を検索した私はすぐに落胆しました。
ぜんぜんそうでもなかった。
かろうじてパレードと白虎野はありましたが、初心者が期待していたようなアルバム量ではありませんでした。素人には玉と石の区別がつかないのです。
しかし全く無いわけでもないので、ひとつ分かりやすそうなものをダウンロードしてみましょう、と我がiPhoneに招き入れたのが「救済の技法」です。
ウーンかっこいいジャケットだな~と凡庸な感想を挟みつつ、庭師KING、Forces、ナーシサス次元から来た人、TOWN-0 PHASE-5、MOTHER、救済の技法、と順番に分かりやすいものから攻略していきます。この「わかりやすい」とは歌詞の意味のことではなく、音として興味深いかどうか、メロディーに中毒性があるかなどのことです。
特にMOTHERは、大好きな米津玄師がラジオでおススメしたという事件を聞いてからより深みにハマりました。有名人がいいと言っていると入り込みやすくなる、凡人道の師範みたいな生き方をしているのが私です。
米津玄師と星野源が平沢進を挙げてるのを聴いてニヤニヤするための動画
同じ理由で星野源おススメの「世界タービン」にもハマりました。このころからYouTubeに舞い戻り、ときめく開拓心も露わにどんどん進んでいきます。
何を言っているかさっぱり分からないのに、歌詞を取り巻く音たちと、歌詞を載せるメロディーがあまりに馴染みがよいのが平沢進の魅力の一つです。一見奇抜なピロピロ音や何の楽器かよく分からない音がしますが、それらが組み合わさると何故かとても心地よく、あるいは勇ましく、あるいは懐かしくなったりします。どうしてでしょうか。私にも分かりません。
全く見知らぬ風景画を見せられて、「これはあんたの生まれ故郷だよ」と宇宙人に言われ、「なるほどね」と郷愁を感じてしまうような感覚と言ったら近いでしょうか、
この時点ですでに色々と手遅れな気がしてならないです。
〇さらに深みへ
それからしばらく、「救済の技法」を鬼のようにリピートする毎日が続きました。アルバム内の全ての曲を聴いて、リピートしたいものとそうでないものに分かれたりなど、好みはそれなりに分かれましたが、それはそれはアホのように聴きました。それまでRADの「洗脳」が関の山だった理解の範囲は、2D or not 2Dを皮切りに、あっという間にパンクしていました。
「救済の技法」でやや平沢進に頭と感性がこなれてきた頃、またしてもYouTubeが新たな道を拓いてくれました。
宇宙のテクスチャをペロッと剥がして神が行ったモデリングの裏側を見たら、多分こうなってると思います、という曲に聞こえました。精巧な3DCGゲームでカメラをぐりぐり動かしていたら、不意にモデルの内側に入ってしまって、モデルのテクスチャを内から見たらものすごい色彩と形状になってしまった、それの全宇宙バージョン、そういう体験に似ています。すみません、自分でも何言っているか分かりません。とにかく初見でそう思ってしまったのだから書かざるを得ないんです。
自室の畳の上に寝っ転がって終わらない課題と添い寝しながら、衝撃でしばらく呆然としたのを覚えています。
こんな音楽がまだあったのか、少なくとも8年前から。これはとんでもない事実でした。
どうやら、平沢進についてまだ探求する事項はあるようでした。
私は救済の技法でやや慢心していたことを反省しました。平沢進を理解した気になってはいけないぞと自戒もしました。知れば知るほど、平沢進の音楽は私にとって不可侵の領域のような気がしてきます。
〇最近
そういう訳で深々とはまりこみ、いよいよ沼地の水面もはるか頭上に遠のいたなあ、でも他のファン(馬骨)はもっと気の遠くなるほど深みにいるなあ、とウロウロし、美術館とフルヘッヘで度肝を抜かれていた頃、私のツイートを見ていたであろう友人が「配信の歌枠で平沢進アカペラ縛りをやってたVtuberがいる」と私に言いました。
2,3分で終わるかと思ったら1時間強くらいあって部屋でげらげら笑ってしまいました。どうかしています。しかも1曲目がフルヘッヘとは、初心者門前焼き払いじゃないか!となんとなく古参ぶってしまったことを恥じながら、まず知っている曲を順番に聴いて歌唱力の高さに驚きました。普通にめちゃくちゃうまい。
正直アカペラなんて無茶だろうと軽視してしまったのですが、あまりに上手いので白虎野を聴いた辺りからチャンネル登録を迷いはじめます。
1番だけ歌ったりと割と短くパッパと聴けるので、聴いたことのない曲も手軽に試せるのが楽しかったです。試食版平沢進。
それにしても、はまろうと思えばどんどん情報が湧いてきますね。ファン(馬骨)の支持が骨太で素晴らしい。新参者にも比較的優しい。西に世界タービンのPVを見て倒れた新参者がいれば行ってライブの映像を支給してやり、東に美術館であった人だろと言われた新参者があれば、行ってオセアニアでは常識だよと言い返します。
曲はほぼ無限にあり、Twitterには平沢進本人が毎日夜に1時間浮上します。
土壌が豊かすぎて掘り返すのに苦労する日々です。際限がないので、そろそろ締めようと思います。
〇
平沢進の作ったものは数多くあり、私はそれを享受することで、この平沢進という人間の見た世界を少しだけですが闊歩することが出来ます。平沢進の音楽とライブを視聴することは、アマゾンの森を探検すること、南極に調査隊を派遣すること、木星の衛星に探査機を送ることと一緒です。ありとあらゆる手法のライブパフォーマンスで、ありとあらゆる言葉を尽くした歌詞で、ありとあらゆる音で作られた平沢進の宇宙を、私はまだ全て探索し終えていません。興味の尽きない限り、もう少しこの平沢進という還暦ぐらいのおじさんの世界を見て回ろうと思います。
中途報告は以上です。