ウォッシャブル全裸

this is my life

「待て、しかして希望せよ」について

みんな聞いてほしい。


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この漫画は大変である。私は大変なものを見つけてしまった。


以前から某ソーシャルゲームの影響で非常に強い関心を抱いていた、言わずと知れたアレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」……原作を読みたい、と思いつつ高校の温室生活でふやけた脳には全7巻の文庫本すら苦行だった。しかしここに救いの光が現れる。Amazonのレビューは星4.5、1巻完結で864円、手元には高校卒業時に貰った1000円分の図書カード。もう買わない理由がない。そして新宿紀伊国屋は偉大である。かくして、翌日の夜にはこの本は私の手中に収まっていた。



読んでみると、これがなかなか最高。

1巻分にまとめているためストーリーは凝縮され、冒頭部分の展開の速さは気にならない、というかむしろこの勢いが良い。私は頭が悪いので少々悩む点はあったが、注意深く読めばなんの問題もない。活字リハビリ中の多忙なアホという三重苦にも「モンテ・クリスト伯」が読める!しかも面白い!

作者様に全力で感謝したい1冊だった。



さて、今週木曜日から放送されているドラマ「モンテ・クリスト伯爵〜華麗なる復讐〜」のタイトルが示すように、この原作は若い船乗りが幸運の絶頂にいる最中、様々な人間に陥れられ冤罪で投獄され、その中で復讐を誓い、脱獄を果たした後には圧倒的な知識と財力でせせこましい悪役をバッサバッサと華麗に薙ぎ倒していく……というストーリーは有名だ。私は悪い人間が苦しみながら死ぬのを見ることに非常に愉悦を感じるので超期待しながら漫画を読んだのだが、この「復讐」という行為と、それに身を染めたエドモン・ダンテスという男が印象的だった。



エドモンは若くして船長に任命され、美しい娘を嫁にしても決して傲慢になることはなく、高潔な精神の持ち主だった。だからこそ恨まれ冤罪という罠にかかってしまうのだが、投獄された後、ファリア司祭という老人との関わりを通じて知恵を身につけ、また脱獄してからは圧倒的な財力をもち、最強となって許しがたい敵を追い詰めていく。

だがここで、私の想像と異なる部分があった。


「華麗なる復讐」というくらいだから、それはもう23年のありったけの怨嗟を込めて、それはそれは無慈悲に悪役を成敗していくのかと思いきや、この伯爵、わりと人間味がある。ありすぎるといっても良い。

もちろん、敵を死に追い詰めるために「よくここまで相手の嫌がること考えつくな……」といった知恵があったり、自分を騙した相手が罠にかかり破滅していくのを眺める様はまさに悪魔そのものだが、恋敵と結婚したメルセデスの涙に計画をなげうってまで死を決意したり、復讐のための駒として用意したに過ぎないエデの婿探しをしたり、復讐する相手の妻子が計画違いでうっかり死んでしまった時「やりすぎた……こんなはずじゃ……」と反省するなど、なんだかんだ「人間」が出ている。


23年だよ? 冤罪で23年投獄されて、発狂寸前まで陥って、ようやく脱獄して復讐が叶うのに、え、そんなに良心残ってて大丈夫?人間、そんなに優しくないでしょ?アレクサンドル・デュマ、甘くない?




私が想像していた通りのフィクションだったとしたら、エドモンは血も涙もない無慈悲かつ残虐な復讐鬼となって、永遠の苦しみを敵に与える恐ろしい伯爵に変身していい。ただ単に「可哀想な悲劇の主人公が、派手に復讐する劇」というのは、読者の日常の鬱憤を晴らすエンターテイメントとして価値がある。


しかし、アレクサンドル・デュマは私の想像を裏切った。

この物語のテーマは「待て、しかして希望せよ」……不幸を乗り越えた人間にこそ幸福は感じられる、というものだった。ただ単に、伯爵が悪役をやっつけ、ああスッキリした、はいおしまいの劇ではない。それだけの物語だとしたら、モンテ・クリスト伯爵は血も涙もない無慈悲な復讐者という生物に成り果て、復讐を果たした後にはもう生きる気力も何もなくなってしまうオチがついただろう。アレクサンドル・デュマは人間大嫌いみたいな復讐劇を考えたくせに、実は「人間はどう救われるべきか」を書いていたのである。



耳にタコができるほど聞く話だが、人生は一度上昇すると必ず転落の時を迎える。だがそこで踏みとどまった者こそ、さらなる幸福へと上り詰め、上昇と下降を繰り返しながら人間として成長していく。

この本を買う前日に、プロダクトデザイナーである講師がアレクサンドル・デュマと全く同じ思想を私たちに教えていた。

不幸な時に、ああもういいや、どうせ無理だ、と投げやりになったら1番のおしまいである。復讐であれなんであれ、ともかく強烈な意思を以って生活していかなくてはならない。そして人間味を忘れてはならない。最後まで人間でいることがどん底に落ちないための秘訣だ。




ちなみに、私は今のところ不幸ではないので、そんなに頑張る必要はない。









おわり





(漫画版「モンテ・クリスト伯爵」のカバー裏の番外編、最高に尊いの極みなので購入した際はぬかりなくチェックしてね)